告解の虚偽方便1

 何やら息苦しい日が続いたので深夜0時に心の病院を訪れたところ、不正脈の疑いがあると言われた。医師は見てくださいと心伝図を取り出し、二つ連続した山型の波形を指差して「何に見えますか」と聞いてきたので「ロールシャッハ・テストか何かですか」と返せば「はい、これは鳥の嘴です」「あの、どういうことですか先生」「鳥を飼っていますね?」と。

 実家には黄色いインコがいると正直に答えたが「いいえ、青い鳥の話です」と埒が明かない。「青い鳥は思っているより身近にいるものですから、気がつかなくても仕方ありません」言うが早いか、医師はからっぽの鳥籠を僕に渡し、中を覗くよう促した。すると不思議、青い鳥が閉じ込められている。これは……と向き直った途端、僕は自分の目を疑った。医師は両手を伸ばし、こちらに銃口を向けている。

 次の瞬間、僕は鳥籠の中にいた。僕の座っていた椅子で血しぶきが上がり、青い鳥は倒れ、医師は顔をしかめて銃を懐にしまう。亡骸を天井のゴミ箱に投げ入れた医師はそっと僕を解放し、しかめっ面のまま、治療は終わりました、と呟いた。何から何まで僕にはわからないことだらけだったが、この時初めて医師と目が合い、自分はこの人に助けられたのだと実感した。

 それから数秒間呆けていた僕は、「捨てておきます」という看護師の声で我に返った。返り血に染まった白衣を脱いで渡した医師は、看護師に会釈したあと僕の方に向き直って
「それでは処方箋をお出しします」
 と言った。しかし渡されたのは何故か一冊のノートで、『告解の虚偽方便』と意味不明なタイトルまでつけられており、わけがわからない。
「あなたは書かなくていいことを書きすぎた、それも正直に。これから何か書きたくなったら、このノートに嘘を綴ってください。いいですか、嘘ですよ、なに、矛盾が起きたら覚えていないことにすればいい」

 結局僕はそのノートだけを手に帰り、眠った。そして今に至り、嘘を綴るのである。こんなことになんの意味があるのかわからないし、そんなに嘘が書けるかわからないが、とりあえず今日は意志の言うことに従ってみる。