告解の虚偽方便3

 僕は下僕として凡才らしく忙殺されつつ希望への参謀も兼ね女神に仕えている。始まりはひと月ほど前だった。

 その頃の僕は、創造の女神を捕まえてしばらくハネムーンに旅立とうと目論んでいた。しかし、まずは日々の仕事を終わらせなければ気が済まない。なら彫刻の材料に使う木を切りましょうと斧を携えて森に繰り出したが、今度は斧の持ち方に困り果てた。いったい右手が上だったか左手が上だったか。悩んでいるうちに両手が柄に巻き付いてしまい、斧はカドゥケウスの杖に変貌した。僕は商いなどに興味はないのだと慌てて両手をほどくと、真ん中にあった斧は勢い余って飛んでいき、目の前の泉にどぼり。すると案の定、泉の精が出てきたのだった。
「あなたが落としたのは創造の抽象的女神ですか、それとも創造の具象的女神ですか」
「金の斧と銀の斧ではないのですね」
「それにも興味はないでしょう」
「聞こえていましたか」
「さあ答えなさい、落としたのはどちらですか」
 追い求めていたのは創造の抽象的女神の方だったが、この質問には欲しいものを返してはいけない。僕は一瞬考えてから、こう答えた。
「残念ながら私は、男も女も落としたことがございません」

 僕の冗談がつまらなかったのか、泉の精は創造の具象的女神を寄越してきた。しばし唖然としていた僕であったが、この女神は開口一番に意外なことを言ってのける。
「作業場を私に預けなさい。その方が目標にも近づくことでしょう。その代わり私に仕え、雑務は全てこなすこと」
    はい、と小さく頷いてしまってから、僕は自分が承諾したことに気がついた。そのために始まった仕事生活の様子は一行目に記した通りである。しかし女神不在では希望の見えない茨道だったことは疑いようもなく、今では不意に出た自分の頷きにさえ感謝している。ではあの時、なぜ生返事をしてしまったのか。僕にはどうしても気になっていることがあったのだった。僕はのちにそのことを相談している。
「女神さま、私めの斧はついに返ってきませんでした。これでは彫刻の材料が手に入りません」
    すると女神はこんなことを言った。
「木が無いなら森を使えばいいじゃない」
    人が人なら神も神だと、僕は悟った。